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広島高等裁判所岡山支部 昭和34年(ネ)158号 判決 1960年9月30日

控訴人 永山秀年

被控訴人 板野忠

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、書証の認否は

被控訴代理人において、被控訴人が本件事故につき過失があつたとの事実は否認すると陳述し、被控訴本人尋問の結果を援用し

控訴代理人において、控訴本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立は知らないと述べ

たほか、原判決摘示事実のとおり(但し、原判決四枚目裏十二行目の「同寺坂寿」とあるを削除する。)であるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、被控訴人が控訴人の過失に基く本件事故により治療費金二十五万円、就業不能によつて喪失した営業上の損失金二十万五千三百二十五円、将来得べかりし営業上の利益の喪失金七十六万二千七百十円、慰藉料金十万円合計金百三十一万八千三十五円の損害を蒙つたものと認めるが、その理由は原判決において詳細説示するとおり(但し、原判決七枚目表十行目の金二十四万六千七十六円とあるを金二十四万五千五百七十六円に、同九枚目裏一行目の金七十六万二千六百十五円とあるを金七十六万二千七百十円と各訂正する。)であるから、これを引用する。当審における控訴本人の供述をもつてしても、右認定を覆えすことはできず、他に、これを動かすに足る証拠は存しない。

控訴人は、本件事件につき被控訴人にも重大な過失があつた旨主張するので、この点につき検討するに、本件事故現場は幅員十五米の車道部分であつて、被控訴人が自転車で岡山駅方面に向つて進行するを認めた控訴人は、折柄反対方向より自動車の進行するを認めて被控訴人の右自転車左側を追い越すべく、その左後方約五米の距離に接近した際、被控訴人が自転車のハンドルを稍々左に切つたため、本件事故を惹起したことは、原判決に説示するとおりであり、被控訴人が控訴人の自動車に追突された位置が右車道の左端から三・五米の個所であつたこと及び右車道の東側には別に幅員五米の緩行車道の存した事実は、成立に争いのない甲第二ないし第六号証、原審における検証の結果、原審及び当審における控訴本人尋問の結果によつて、これを認めるに足りる。右認定に反する原審及び当審における被控訴本人の供述は措信しない。凡そ、自転車等の緩行車が道路を進行するに当つては、緩行車道の存するときはこれを通行するのが最も安全な方法であるが、本件の如く右緩行車道が公安委員会によつて緩行車道としての指定がなされていない以上、被控訴人の右車道の通行を咎むべきものでないとしても、通行区分に従いできるだけその左側を進行すべき義務の存することは、道路交通取締法第四条、同法施行令第十一条の規定によつて明らかである。しかるに、右認定事実によると、被控訴人は、右義務を怠り、前示車道をその左端から三・五米の個所を漫然として自転車に乗つて進行していたため、控訴人が自動車でこれを追い越すに際し右自転車の左側を通り得るものと考えて進行した結果、本件事故を惹起したものといわざるを得ないから、被控訴人はこの点につき過失の責を免れない。よつて、被控訴人の過失を相殺すると、被控訴人の本件事故による損害額は金百二十一万八千三十五円と認めるを相当とする。

しかして、原審における被控訴本人の供述によると、被控訴人は自動車損害賠償保障法により本件事故に基く給付として金十万円の交付を受けた事実を認め得るから、控訴人は、被控訴人に対し損害賠償として、前示金百二十一万八千三十五円から右金十万円を控除した金百十一万八千三十五円のうち金七十万円及びこれに対する本件不法行為後の昭和三十三年十月二十四日から完済に至るまで民法所定利率年五分の割合による遅延損害金支払いの義務ありというべきであるから、被控訴人の本訴請求は、正当として全部認容すべきものである。

なお、被控訴人は、前示治療費のうち金二十五万円、就業不能による営業上の損失のうち金二十万円、得べかりし営業上の利益の喪失のうち金二十万円、慰藉料のうち金五万円合計金七十万円の支払いを求めているので、前示過失相殺及び保険給付合計金二十万円をいずれの損害から控除すべきか、或はその全部から控除すべきかによつては一部請求を棄却すべきではないかとの疑問を生ずる余地なしとしないが、被控訴人は本訴において本件事故による損害の一部として金七十万円の賠償を求めるものであつて、右請求のうちには、被控訴人主張の損害が認められない部分については、他の損害からこれが支払いを求める趣旨を暗默に包含しているものと解すべきであるから、右金二十万円を被控訴人の蒙つた損害のいずれか、またはその全部から控除すべきかということの如きは、本訴請求に何らの影響を及ぼすものではない。

しからば、これと同旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用し、主文のとおり、判決する。

(裁判官 高橋英明 柚木淳 長久保武)

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